PEOPLE
【リレートーク】ファインダー越しの地球、⽣命の営み
マサとの出会い
マサとの最初の出会いは、もう四半世紀ほど前になると思います。私がアウトドアメーカーの広報担当だったころ、僕の⼤学時代の野外ゼミで1 期下の後輩だった優美から紹介を受け、ヒマラヤの遠征に使う器具の提供依頼を受けた時でした。マサの登⼭スタイルや⾃然との向き合い⽅に感銘を受け、これからの⽇本の⼭の世界に⼀⽯を投じる冒険家として期待が持てると社⻑に直訴した記憶が今でも蘇ります。以来、残雪期の富⼠登⼭に参加させてもらったり、FOS の活動を少しだけお⼿伝いさせてもらったり、また、出⾝がマサと同じ⼤分県である同郷の親近感と原⾵景の共感もあり、細くも⻑いおつきあいをさせてもらています。つたない⽂章ですが、少しでも動物たちの命の営みや写真に興味を持っていただければ幸いです。
⾃然の中を歩く醍醐味のひとつが、素晴らしい情景や多くの動植物に出会うことです。そのひとつひとつの体験が普段の⽣活では味わえない感動や刺激を与えてくれて、私達が住むこの“地球”の息吹や⽣命の神秘、惑星のダイナミズムを教えてくれます。そしてその体験は私達の中で⽣き続け、⼼の豊かさや命の⼤切さを養ってくれます。
私は普段、房総半島の情景や野⿃、⾶⾏機や天体などを中⼼に写真を取り続けていますが、今回は「⻘い宝⽯」と呼ばれる野⿃、カワセミを例に、私達が普段⽬にする⾃然の中での命の営みをご紹介していきます。
カワセミってどんな⿃?
みなさんは「カワセミ」という⿃をご存知でしょうか。「翡翠(ヒスイ)」と書いてもカワセミと読むことのできる、別名「⻘い宝⽯」と呼ばれる美しい⿃です。体はスズメ程度の⼤きさで⽇本のカワセミの仲間の中では⼀番⼩さく、⻑いくちばしを持っています。⽻根は産⽑のような細かい⽑で覆われ、光の当たり⽅によって⻘⾊に⾒えたり緑⾊に⾒えたりします。これは「構造⾊」といって、昆⾍のタマムシがいろんな⾊に⾒えるのと同じ原理です。餌は⼩⿂や⼩エビで、⽌り⽊など⾼い場所から⽔中めがけて⾶び込み、獲物を捕らえて戻ります。その間、約1 秒未満の早業です。
カワセミってどこにいるの?
これだけ美しい⿃ですから、なかなか出会えない⿃のように思われがちですが、実はカワセミは⽐較的どこにでもいる⿃なのです。池や⼩川などの⽔辺があって、⼩⿂や⼩エビのいる場所であれば⼤抵の場所にいます。カワセミは留⿃(⼀年中同じ場所に住む⿃)であり、テリトリー(縄張り)を持って暮らしているので、⼩さな池であればそこには⼤抵1 組のカワセミが住んでいます。意外とみなさんの⾝近で⾒ることのできる野⿃なのです。カワセミを⾒つけるためのヒントがいくつかありますので、以下のことを覚えて探してみましょう。
・⽔辺があり、⼩⿂や⼩エビが⽣息している
・カワセミは同じ場所にずっと住んでいる
・カワセミは⾶び込むための場所が決まっている
・カワセミには「トイレ」がある
・⽌り⽊がある
カワセミはテリトリーの中で、⾃分の狩場をいくつか決めています。それは経験上、獲物がよくとれた場所を記憶しているからです。ですから⼀度⾶び込むシーンを⽬撃したら、またそこにやってきますので⾟抱強く待ちましょう。動き回って探すと、逆に⾒つけにくくなります。そして「トイレ」があることに驚いたかもしれませんが、実はカワセミはとてもきれい好きで、いくつかの決まった場所でトイレをします。⼀瞬お尻をちょっと上げて、⽩い液体上のフンを出すのです。
最後の「⽌り⽊」ですが、カワセミはとても美しい、⼈気のある⿃ですので、観察したい⼈が⼈⼯的に⽌り⽊を⽴ててることがよくあります。それを⾒つければ、そこにカワセミがやってくる可能性は⾮常に⾼いのです。
カワセミの⽣態①―縄張りの主張―
春になると、カワセミは「ピー」と⾼い声で鳴きながら⾶び回り、この辺りが⾃分のテリトリーであることを主張します。もし別のオスがやってきたら、追いかけ回したり、時にはくちばし同⼠で挟み合って⼤喧嘩して追い出します。時には相⼿を⽔に沈めるほど激しく喧嘩するときもあります。
カワセミの⽣態②―求愛⾏動―
カワセミのオスは、どうやってメスに求愛するのでしょうか。これは⼈間によく似ています。「プレゼント作戦」です。オスはメスに気に⼊ってもらうために⼀⽣懸命狩りをし、⼤きな⿂をメスにプレゼントします。⼤きな⿂ほどメスは気に⼊ってくれます。オスは必死です。⼤きな⿂を捕まえ、「これをあの娘にプレゼントしよう!」と決めると、⿂を真っ直ぐに咥え直します。その時⿂の頭は相⼿の⽅向です。これはオスとして、メスに対する最低限のマナーです。咥え直すとオスは⼀⽬散にメスの元へ向かい、獲物を差し出します。これを受け取ってくれたらカップリング成⽴です。さあ、楽しい愛の⽣活の始まりです!
カワセミの⽣態③―巣作りー
カップリングが成⽴すると、オスは⼤忙しです。まず巣作りを始めます。でもその間にメスの気持ちが冷めてしまわないように、メスに獲物を届け続けることもしなくてはなりません。カワセミが巣作りを始めたかどうかは、カワセミを観察していればわかります。くちばしに⼟がついているのです。カワセミは蛇などの天敵に襲われないように、⼭の切り⽴った斜⾯の⼟に⽳を掘って巣を作ります。⼊り⼝は狭く、中は広い円形状の巣です。わたしたちもカワセミのくちばしに⼟がついていると、今年も繁殖活動が始まったと胸をなでおろします。
カワセミの⽣態④―⼦育てー
カワセミのメスは⼀度に3〜4個の卵を産み落とし、約3週間の抱卵期に⼊ります。オスはその間、せっせと獲物を捕らえては巣に運び続けます。1⽇に何度も何度も。よーく観察すると、オスの頭がハゲてきているのがわかります。まるで寝癖を直してないかのようにボロボロの時もあります。まさに⾝を粉にして働いているのですね。そして雛が還ると、育雛期(いくすうき)に⼊ります。更に⾷いぶちが増えるわけですから、オスは更に忙しくなります。時にはメスと交代で狩りをします。野⿃の世界も⼦育ては⼤変です。育ち盛りだからとにかく1⽇中、餌を運んでいます。このとき、消化の悪いエビなどは持っていきません。⿂を捕まえては地⾯や枝に叩きつけて⾻を砕き、柔らかくして運んでいくのです。そして約3週間後、雛たちは巣を出ます。巣⽴ちです。
巣⽴ち後もしばらく給餌の世話は続きます。しかし同時に、親たちは⼦たちへ、⽣きる術を教え始めます。例えば⾶び⽅。巣⽴った雛たちはしばらく近くの枝に並んで留まってたりします。親たちは給餌しながらも、餌を加えたままちょっと離れたところに留まって、雛に⾶んでくることを促します。こうして雛たちは⾶び⽅を覚えていきます。⾶び⽅を覚えて、雛の姿も成⿃に近づいた頃になると、狩りを教え始めます。親たちは餌を咥えて持ってきますが、与えません。⾒せるだけです。つまり、⾷べたかったら⾃分で獲りなさい、というわけです。それでもわがままな⼦は親から無理やり餌を奪い取ったりすることもあります。雛たちはやがて⾃分たちで⾷べ物を⼿に⼊れなくてはならないということを悟り、低い枝から⽔⾯をジッと⾒つめ始めます。⾶び込むにはまだ勇気がでないのです。まだくちばしの短い幼さの残る幼⿃、とても健気で可愛らしく⾒えます
カワセミの⽣態⑤―⽴派な成⿃へ。そして運命の縄張り争いへー
少しずつ勇気を振り絞り始めた幼⿃は狩りを覚え、数ヶ⽉で⽴派なくちばしとなり成⿃に成⻑します。しかし⼤⼈になったら⾃分のテリトリーを持たなくてはなりません。しばらくは親と⼀緒に同じテリトリーで過ごしますが、やがて親⼦同⼠での縄張り争いが始まります。歳をとった親と元気いっぱいの⼦。ほとんどの場合、親がテリトリーを追われます。ちなみにカワセミの平均寿命は約2年と⾔われていますが⼦育てが終わる頃にはすでに約1年半の寿命が費やされています。4〜5年⽣きたという記録もありますが、⼦育てで体⼒を消耗しきったカワセミはテリトリーを追われたあと、猛禽類などに襲われ命を落とすなど、寿命というよりも襲われてしまうパターンが多いようです。そして⼦はテリトリーを引き継ぎ、また翌年に縄張り主張から命の営みが始まります。
観察のコツは「いつも同じ場所で観察する」ことです。もしいつも散歩する公園の池や川辺でカワセミを⾒かけたら、毎回同じ場所で観察してみましょう。双眼鏡があるとよく観察できますが、カメラがあればぜひカワセミの⽣態を記録してみてください。最初はまったく撮れないと思います。野⿃の中でもカワセミの撮影はかなり特殊な世界ですが、コツを掴めば撮れる場⾯もたくさんありますし、なにより写真を撮る楽しさや醍醐味を感じてもらえると思います。
カワセミの⽣態 ―番外編―
・ペリット吐き出し
カワセミは消化しきれないものは「ペリット」と呼ばれる団⼦状態にして吐き出します。ペリットを吐き出すのも⼀瞬ですが、嗚咽するように⼝を何度か開け締めするので兆候がわかります。多くの場合⽔⾯に吐き落とすのですが、地⾯に吐き落とすこともあるので、⾒つけたら観察してみてください。ほとんどはエビの殻です。
・⽔浴び
⽔⾯に近いところに留まって、何度も⽔に⾶び込みます。多いときは1⽇に3回も4回もすることがあります。⿂やエビの匂いが気になるのかな?⽔浴びの後は、丁寧に時間をかけて⽻繕いをします。
いかがでしたか?ちょっと⾒かける⿃も、実はいろんな⽣活があって、命の営みが⼈間と同じように⾏われてるんですね。⾃然の中では、いや、この地球上では、⼈間だけでなくあらゆる動植物が命を⽣み、育み、終えていきます。窓の外で鳴いているスズメも、河川敷に咲いている⼩さな花も、すべて。カメラはファインダーを通してその命の営みを記憶とともに記録してくれますし、⾃然の息吹や地球の息遣いまで感じることができます。また、⾃然をつぶさに観察する⼒も養ってくれますよ。
おまけ ―⾶⾏機で感じる地球の息遣いー
私は⾶⾏機もよく撮ります。空港まで出かけて撮ることもありますが、空港じゃなくても⾶⾏機は撮れます。その時、ただ機体だけを撮るのではなく、⾶⾏機に絡む気象現象や光と⼀緒に撮っています。こうすることで地球の息遣いの中を⾶⾏機が⾶んでいるといいうことがよくわかるのです。最後におまけとして、⾶⾏機に⾒る⼤気の現象や光をご紹介します。⾶⾏機と地球の共演をお楽しみください。
Profile
五嶋慎也(かずき)
千葉県市原市在住
1968年7月生まれ、大分県臼杵市出身
淑徳大学社会福祉学部卒業、ゼミは土井野外教育学ゼミ
イワタニ・プリムス株式会社、一般社団法人日本キャンプ協会などいくつかの会社を経て、
現在はジェットスター・ジャパン株式会社勤務
房総半島の秘境や絶景、天体、野鳥、飛行機などを中心に写真を撮り続ける
趣味はサーフィン、スノーボード、ギター、登山など