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【リレートーク】僕は無力 土井浩信先生


子どもの頃は、運動能力や体力などが、僕の唯一の取り柄でした。でも東京教育大学(現・筑波大学)体育学部に入学して、オリンピック金メダリストを初め、最低でも国体出場者らがひしめき合うような場に身を置いてからは、運動万能が我が取り柄だという自覚は一瞬にして霧散しました。

以来僕の周りには、常に『凄い世界』に生きている人たちが闊歩していて、次第に自分の無力さに念を押される気分で過ごすようになりました。何をやっても一流ではなく、これと言って秀でるものがないまま、凄い方々を雲の上に見ながら生きてきました。かといって卑屈になったことはありません。そこは生まれつきの呑気さが幸いしたのかも知れません。それはともかく、僕は自分の無力さを素直に認めて、凄い世界の方々の『凄さ』を謙虚に学ばなければもったいないじゃないかと気付きました。

大学生の時には、友人のオリンピック体操金メダリストの華麗な技の中の『線の美しさ』が、何を持って生み出されてきたのかを聞き出して学ぼうとしました。もちろん絶対に自分では出来ない技や美しさの表現ですが、それは生み出してきたヒストリーを聞き出して、その凄さに触れたいと思ったのです。


(甲斐駒ヶ岳黒戸尾根入山口のつり橋の滝にて。大学院生の土井先生と学部生の愛妻忍先生)

院修了後に赴任した大学では研究の怖さを7年間叩き込まれ、縁あって筑波附属小に転任しました。が、ここで自分の授業の至らなさと無能さを思い知り、周囲の筑附の教員達の授業の凄さを目の当たりにして、改めて『無力』を自覚させられ、筑附教員達の授業の凄さの秘密を是非とも知りたいと思いました。3年間、暇さえあれば授業名人達の授業参観をし続けて、その『凄さ』に触れていました。決して自分には出来ない、出来るわけがない授業名人達の凄さでした。が、少しずつ感化され続けて、何やら自分のスタイルらしきものかが天から降ってきたような気がしてきて、いつの間にか僕の授業時の子ども達の目が輝くようになっていました。


(筑波大附属小学校の体育授業にて)


今にして思い返せば、小学校教員時代の5年間は、僕の『無力さ』が、もしかしたら僕の『凄さ』かも知れない、と気付いたターニングポイントだったように思います。

 

大学に戻れと言われて淑徳大学で野外ゼミを持ちましたが、ゼミ生に野外教育活動の知識や技術を教えられても、人としての最も大切なことを伝えたり感化させたりして『人を育てる』ことなど出来るわけがない、と充分自覚していました。だからゼミ生達には、僕が『凄い奴』と敬意を覚えている先輩や後輩達と出会える場を設定してあげるのが、僕がしなければならない最大の責務だと思ったのです。

キャンプでも雪上でも山でも海でも、学内の授業でも、そうした凄い人達を非常勤の講師として呼び込み、ゼミ生達が彼らと接する場と環境を提供していきました。そんなことが次々と実現できたのは、何のことはない、僕の『無力さ』故だったと、今にして分かるのです。


(ゼミ登山北アルプス西穂にて)

今では信大教授になったFや、都留文科大教授のKや、川崎医療福祉大のYや、TOPSのTや、慶応大学教授のNや、福祉に生きるNや、言わずもがなのスマッシュ・・・等々、指折り数えていくとまだまだ沢山の方々が僕のゼミ生と関わり合ってくれました。中でも心の深いところで繋ぎ合うことが出来たFOSのマサとは、ゼミOB達との触れ合いが今も継続しています。それはマサの世界の凄さや人としての魅力に、ゼミ生達が側にいるだけで感化されてきた証しだと思います。これも、何故そんなことが、小さな私大の小さなゼミの環境の中で実現できたのでしょう。


(大学生に直接体験学習の機会を開く講師陣)

名もない小さな私大の小さな野外ゼミなのに、同期生同士だけでなく1期生から30期生までが縦のゼミ仲間として深く繋がりあって実に仲の良い交流が出来上がったのは何故でしょう。

やはりそれは、間違いなく僕が『無力』だったからです。多くの凄い方々に助けて頂かなければゼミ生達を育てていくことが出来なかったからです。それが『無力の凄さ』だったのだと思うのです。それを僕自身に与えてくれたのは、これまでのキャリアの中で触れ合えた沢山の凄い方々のお陰に違いありません。


(残雪の富士山登頂実習にて)

野外の世界でもスポーツの世界でも学問領域の知的な貢献度においても、何一つ大きな事を為し得ていない僕が、自分の『無力』を自覚して、そしてそれをある意味武器にしながら、凄い人たちの凄さと繋がり合ってきたご褒美だったのでしょうね。

残された僕の時間は少なくなってきましたが、凄い人たちの凄さに接しながら、今も楽しく学びつつ、へへへへへ!・・・遊んでいます(^_^)v


(土井先生退官祝賀会にて、ゼミ生大集合!)

恩師土井先生の経歴をご紹介します。
昭和21年広島県江田島生まれ。
東京教育大学(現・筑波大学)体育学部卒業、同大学研究科(野外運動学)修了
警察大学校助教授、筑波大学附属小学校教論を経て、淑徳大学社会福祉学部教授。
2017年定年退職。現在、同大学名誉教授。
土井ゼミ野外教育研究室では、春は山菜合宿・夏はダイビング・秋はきのこ合宿、冬はスキー・スノボー・ネイチャースキーと、
自然の営みにふれ、人と交わり、心身を豊かに育む体験活動をいっぱい経験させてもらいました。私は自然教育のタネを先生から頂きました。共に活動した先輩や後輩は主に福祉や保育・教育に携わっています。時折、FOSの活動をサポートしてくれるゼミの仲間は年齢や肩書ではなく、ひとりひとりの心根を軸に交流し、誰かをそっと支えていく優しさとユーモアがあるのです。コロナ渦のなかで出会いやふれあうことを憚る日常のなかで、先生の声を聞きたくて、寄稿をお願いしました。自然を愛し、自らの探求に生きる友に届くことを願って。
先生、ありがとうございました♡ 土井ゼミ5期戸高 優美

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